防災庁の発足で国の防災の司令塔はどう変わるのか 防災テック企業が今から備えるべき三つの課題
ニュースの概要
内閣府が、防災庁の発足を見据えて日本の防災戦略がどう変わるのかを解説した。EnterpriseZineが伝えたもので、あわせて防災分野の技術(防災テック)が普及するために越えるべき三つの障壁にも触れている。ポイントは、これまで内閣府や各省庁、自治体に分かれていた防災の役割を、より一元的に扱う体制へ移ることだ。災害が激甚化し、南海トラフ巨大地震や首都直下地震への備えが急がれるなか、技術を現場で使える形にする仕組みづくりが問われている。本稿では記事の内容を踏まえつつ、現場と産業の両面から、この動きが何を意味するのかを読み解く。
引用元: 内閣府が解説、「防災庁」発足で日本の防災戦略はどう変わるのか/防災テックが越えるべき「3つの障壁」(EnterpriseZine)
分析・見解
司令塔を一本化しても現場の動きは自動では変わらない
防災庁の狙いは、平時の備えから発災後の復旧までを、一つの組織で見渡すことにある。これまでは内閣府の防災担当が調整役を担い、実際の対応は国土交通省、総務省、防衛省、各自治体などに分かれていた。窓口が増えるほど、情報を集めて判断するまでに時間がかかる。ここを束ねる意義は大きい。
ただし、看板を掛け替えただけで現場が変わるわけではない。2024年の能登半島地震では、道路の寸断や通信の不安定さが重なり、被害の全体像をつかむまでに時間がかかった。必要なのは組織図の整理よりも、現場の情報が上に届き、判断が下に戻る流れを実際に動かすことだ。防災テックは、この流れを支える道具として位置づけられる。
縦割り予算が防災テックの導入を遅らせてきた
防災の技術には、ドローン、衛星通信、水位センサー、AI解析など多くの種類がある。しかし買い手の側は、消防、河川、道路、福祉などの部署ごとに予算も仕様も別々だ。同じ水害対策でも、河川の水位計と避難情報の配信システムが別々の発注で、データがつながらない例は珍しくない。
防災庁が司令塔になれば、国としてデータの形式や接続のルールをそろえやすくなる。これは技術そのものの進歩より、市場への影響が大きい。製品がどれだけ優れていても、つなぐ先の決まりがなければ全国には広がらないからだ。
実証実験で終わらせず訓練の中に組み込めるか
各地で実証実験は盛んに行われている。それでも、本番の災害で使われた例は限られる。理由の一つは、使う人の訓練が計画に含まれていないことだ。現場では、新しい機器よりも「いつもの手順」が優先される。深夜に停電した状況で、初めて見る画面を操作できる職員は多くない。
航空の世界では、機器の導入と同時にシミュレーター訓練が欠かせない。防災にも同じ発想が要る。機器を渡して終わりではなく、年に数回の訓練まで一体で設計した製品が、結果として選ばれていくだろう。
人手不足の自治体こそ技術が最初に効く場所になる
小さな市町村では、防災担当が一人か二人というところもある。南海トラフ巨大地震では、被害想定の死者数が最大で約29.8万人とされ、広い範囲が同時に被災する。国や隣の自治体から助けが来るまで、少人数で持ちこたえる場面が必ず出てくる。
だからこそ、被害の集計、物資の要請、避難所の状況把握といった事務作業を肩代わりする技術に価値がある。派手なロボットより、地味な事務の自動化のほうが、早く命を救う可能性がある。防災庁の発足を見るうえで、この視点を外したくない。
ビジネスへの影響
提案先は担当課ではなく国の枠組みに合わせて考える
防災庁の発足後は、国が示すデータ形式や補助金の条件が、自治体の購買を左右しやすくなる。企業は個別の自治体への営業だけでなく、国の指針や有識者会議の動きを早めに追い、自社製品が接続できるかを確認しておきたい。具体的には、他のシステムとデータをやり取りできる形式に対応し、仕様書を公開できる状態にしておくことだ。これは営業資料の見栄えより、採用の可否に直結する。
価格表に訓練と保守を入れて見積もる
機器やソフトの価格だけで勝負すると、実証止まりになりやすい。年2回の訓練、操作研修、停電時の代替手順の作成までをひとまとめにし、年間契約で出す形をすすめる。自治体は単年度予算が基本なので、初年度は導入、翌年度以降は運用と段階を分けて見積もると、内部の承認を得やすい。使われなかった機器は次の更新時に外されるため、訓練の実績を数字で残すことが次の受注につながる。
一般企業も自社の備えを見直す好機になる
防災テックの買い手は自治体だけではない。工場や物流拠点、病院を持つ企業にとっても、国の情報基盤が整うほど、自社の事業継続計画(BCP=災害時に事業を止めないための計画)と公的な情報をつなぐ余地が広がる。まず、自社拠点の浸水想定や、停電時に何時間稼働できるかを洗い出す。そのうえで、警報の受け取り先と判断する人を一人ずつ決めておく。最初の一歩は高価なシステムではなく、この確認作業である。加えて、取引先の拠点が被災した場合の代替調達先も、あわせて一覧にしておくと判断が速くなる。